Departure's borderline

本と音楽とディズニーと野球、その他いろいろな興味事

マスクをつけるこの世界で生きていく -映画『聲の形』メモ

 

7月31日(金)の金曜ロードショーは、『聲の形』でした。

映画嫌いの私には珍しく、劇場で見たほどにとても大好きな映画で、漫画も全巻読み通しています。さすがの京アニ、クオリティの高い情景描写は圧巻です。

 

聲の形』が劇場公開されたときは、あえて字幕を、特別な友人とともに見に行きました。
私の右側に座った彼女は、高校時代の障害者福祉センターで出会った、ろうの友達。普段の会話は簡単な手話と、読唇術、筆談。

そして私も、ちょっとだけ聴覚にハンディキャップを持っているひとり。「この作品は字幕で」と、誘い合わせて見に行った作品でした。


映画『聲の形』 ロングPV

 

 

 

***

私の左耳はポンコツで、高い音と低い音が聞こえず、中間の音も右耳の半分程度しか聞こえていません。

 

きっかけは16歳のときの突発性難聴。しんしんと雪が積もる日の朝、起きたら左耳が全く聞こえなくなっていました。その日は大事なコンサートに出演する予定があったので、そのまま本番に。

2~3日経っても聴力は戻らず、母に連れられ耳鼻科を受診したところ、すぐに大きな麻酔科の病院へ回されました。

 

「聴力が完全に戻る可能性、戻っても障害が残る可能性、まったく戻らない可能性、すべてが3分の1の確率」

 

絶望しました。

音楽をプレイする側としてずっと続けてきた私にとって、絶対音感を付けた私の耳は宝物でした。雨の音や風の音、葉っぱのカサカサする音もすべて、音階と色で聞こえてくる、そんな特別な感性を与えてくれた耳でした。

 

 

***

次の日から、私の闘病生活が始まります。
毎日学校を遅刻または早退し、ステロイドの点滴とブロック注射、高圧酸素カプセルに入っての治療。一向に戻る気配のない聴力。裕福ではない我が家の家計に、私の高額な治療費という重荷を背負わせてしまっている罪悪感。

 

1年ほど治療を続け、一時期はほぼ全回復と言えるまで聴力は戻ったものの、その後ゆっくりと聴力が退化していき、現在の聴力までになりました。

 

 

なんとかして今までの生活を取り戻そうと、補聴器や集音器を試したこともありますが、私には合わなかったようで、現在は何もつけていません。

ですが、どうしても左側から話しかけられると、聞こえにくい場合があります。そのため、私は障碍者福祉センターに通い、人の唇を読む「読唇術」を学びました。今でも、聞こえにくいと思った場合は読唇術に頼っています。

 

 

 

***

つまり、このご時世、みんながマスクをしていると、結構困ったりします。口元が隠れていて、読唇術が使えないから何度も聞き返してしまったり。人に「耳悪いんじゃないの?」と言われた時、少しだけ、悲しい気持ちになりました。

 

聲の形』を一緒に見に行った友人と、つい先日Zoomで飲み会をしました。マスク無しで話せるというのは、とてもありがたいことだね、とお互い話し、さらに彼女は、「人の会話が全く見えない。取り残された気分」とまで話していました。

 

「片耳が聞こえる」「普通に話せる」私。

「まったく聞こえない」「話せない」彼女。

程度は違えど、見えないハンディが、私を、彼女を少しだけ苦しめているこのご時世。
少しでも、映画を通してこういった見えないハンディキャップの理解が進むとうれしいなと思います。

 

 

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私が二球団ファンになった元凶が帰ってきた -東京ヤクルトスワローズ#5 川端慎吾

 

 

何度も言っているけれど、私は二球団ファンである。

父からDNAとして引き継いだ巨人と、大学が神宮球場のすぐ近くにあるからという理由で好きになったヤクルト。

 

巨人ファンっていうモンは、だいたいが超ガンコ(うちの父)で、だいたいが亭主関白みたいなオヤジ(うちの父)で、だいたいが巨人が負けるとその日寝るまで不機嫌になるような奴ら(うちの父)である。

 

そんな父のDNAをまるまるっと受け継いだ私だが、ありがたいことに超ガンコには育たなかったし、巨人が負けてもあまり不機嫌にはならない。父の毎回の不機嫌に飽き飽きしていた母の教育がよかったのだろう。

 

***

 

表参道にある、吉田正尚の出身大学に進学し、居酒屋で飲むより球場で飲むビールのほうがコスパがよいと、感覚がマヒし始めた頃の話だ。

 

表参道から東京ドームに行くのは、結構めんどくさい。特に神保町の乗り換えがめんどくさい。対して大学から歩いて行ける神宮球場は屋外球場。雨に降られさえしなければ、ビールは美味いし夏は花火も拝めるし、なにより申し訳ないが、巨人にとってヤクルトは格好のカモだったのである(2017年対戦成績は巨17-8ヤ)。

 

 

というわけで、私は大学時代の現地観戦のほとんどを神宮球場で過ごした。

巨人戦ならばレフトスタンドで。そうでなければ内野の一番安い席で。
ライトスタンド? それは弱いヤクルトを応援する席であって、巨人ファンが座る席ではない。

……当時の私はだいぶひねくれていた。

 

 

就職活動に失敗し、さらにひねくれ、やさぐれた2018年。私はヤクルトの主催試合のほとんどを神宮球場で過ごした。シーズンシート買えよ、って自分でも思うレベルでヤクルトの試合を見ていた。

相変わらず巨人戦ならばレフトスタンドで、そうでなければ内野の一番安い席で。

 

内野の安い席に座り、ユニフォームも着ず、一人でビールをあおりながらもくもくとコンビニで調達したさけチーをつまむ若い女は物珍しかったのだろう、声をかけてきてくれる人もいた。顔見知りも増えた。だいたいヤクルトファンのおじさんたちだったが。

 

***

 

「ねぇ、明日の席買わない?」

内野席で、おなじみのおじさんに声をかけられたのが2018年7月20日(金)、中日との3連戦初日をヤクルトが勝利で飾った日のことである。

 

「えぇ、いやですよ、土曜日学校ないからこっちいないですもん」

「そんなこと言わずにさぁ…じゃあタダであげちゃう!」

 

タダという言葉につられてチケットをもらった私は、券面を見て卒倒する。

 

――外野席。

 

「外野じゃん!笑 私ヤクルトファンじゃないんですってば!」

あわてて突き返そうとする私を、おじさんはニヤニヤと意地悪な顔で制した。

「まぁまぁ、一回行ってきてよ。ヤクルトの応援歌、もう歌えるでしょ?」

 

 

***

 

次の日、しぶしぶ私は外野席に座っていた。

売り子たちが、「珍しいですね!」と私にビールを売りにくる。しょうがない、飲むしかない。背もたれがない椅子は、腰が痛いから嫌なんだ……。ぶつぶつと文句を言いながら、私は試合を見ることにした。

 

先発は石川。2回表、福田に2ランを打たれる。

あぁ、だからヤクルトは。2018年若干好調だとはいえ、負け試合を外野で見させられるのはタダ券だとしても嫌だ。応援もしないからな。外野だからって立って応援しなきゃいけない決まりはないからな。

 

その後追い上げを見せ、4-4の同点で迎えた9回表。福田、この日2本目のソロHR。

決定打だ……。負けた負けた。次におじさんに会ったらどんな顔をしよう。

 

 

9回裏、席を立とうと思った。今なら電車も空いている。

その時先頭の山田哲人が四球で出た。すぐさま盗塁。続くバレンティンは進塁打。一死三塁。この時点で私は帰るのをやめた。

 

畠山がライトへのタイムリー。山田生還で同点。

…なんだよ、面白い試合できるんじゃん。

 

 

そして、6番、川端。

自分でもびっくりしたのだが、私は川端のチャンテを歌っていた。初外野、初チャンテ。毎日神宮球場に通っていたかいがあった。歌える。

昨日も打っていた川端。もしかしたら、という気持ちもあった。

 

バットに夢を乗せ、慎吾はライトスタンドへサヨナラ2ランを打ち抜いて見せた。

 

 

***

 

この日を機に、私はスワローズファンと名乗るようになった。純粋に川端ファンといってもいいかもしれないけれど、川端をきっかけにどんどんスワローズの魅力にハマっていった。

 

あの日から、私の定位置は神宮球場のライトスタンド。おなじみの売り子たちも、もうすっかりライトスタンドで私を探すのが上手くなった。

 

 

 

そんな川端慎吾が、2020年7月7日、一軍に帰ってきた。

腰の不調と戦い、二軍で涙を呑んできた天才バッター。

 

 

復帰1打席目の成績はサードゴロ。それでも、そのスイングにはかつての天才っぷりがぎっしり詰まっていた。明るい未来を信じずにはいられない。

 

 

おかえり、慎吾。

もう一度、バットに夢を乗せ、ぶつかってぶっ壊して、前に進んでいこうぜ。

 

 

 

www.sankei.com

 

25歳になりました

 

昨年にひきつづきまして、当日にちゃんと更新できたー! 自分えらい!

1年のちょうど真ん中生まれこと私です。2020年ももう半分すぎてしまったんですね。早いこと早いこと。

 

 

24歳の1年も、自分としては納得できる前進ができた年だったかなと思います。

 

大きな一歩は、文春野球学校という新しいコミュニティーに足を踏み入れたこと。野球と文章という、わたしのだいすきな2つの要素をぎゅっと凝縮した、すてきな居場所です。

出会う人はみんなおもしろくて、あらゆる方向にぶっ飛んでるので飽きることもありません。たぶん私も、他の人からそういうふうに思われているのでしょう。

 

そして、今までは多くの人に出会うことこそが正しいという考えを改めて、今ある人と深く向き合うことの大切さを再認識できた1年でもありました。

もちろん昨今の情勢がありますから、人と出会うという、いままでなら至極簡単なことができなくなってしまったのも大きな要因だけれど、今私の周りで私を支えてくれる人がどれほど多いかを、やっと理解できたというか。

 

 

大学時代の友人たちはそれを一番感じたなぁ……。私は小中高時代の友人ってあまりいなくて、というか当時はいたけど今現在まで繋がりある人がほとんどいなくて。

だから、大学生から社会人というあたらしいステップに進んだにも関わらず、大学時代の友人がたくさん私と遊んでくれたり、気にかけたりしてくれるのはなんだかうれしくて、あたたかくて、ほんとうにありがとうというきもち。

 

昨日も、大学時代の友人が泊まりにきてくれ、一足先のバースデーを祝ってくれました。なんだか泣きそうになりました。

 

 

25歳。もう「若いから」が通用しない年齢になってきました。

30歳までに、と目標にしてきたことについても、タイムリミットが少しずつ見えてきて、比例してどんどん焦りが出てきている。だからこそ、先の目標ばかりではなくて、今いる自分の足元を見なきゃいけないなと感じています。

 

毎日、自分が今どこにいるのかを確認しながら、一歩一歩確実に進んでいける25歳にしたいです。

2020年上半期私的ベストアルバム8

 

さてさてもう2020年も半分が終わってしまいます。

今年は外に出られない事情もあったことですし、なんだかこの半年は生きた心地がしなかったですね。ライブもフェスも行けなかったわけだし。おかげでラジオと音楽鑑賞が滾る滾る。

 

というわけで上半期の私的ベストアルバムを8つ出してみました。すべて順不同、同率1位です。キリがいいし10個出そうかとも思ったんだけど、無理して出すより自分が納得できる8つを厳選しました。

 

 

藤井風『HELP EVER HURT NEVER』

2020年上半期の音楽で、このアルバムは外せないでしょう。藤井風初のオリジナルフルアルバム。この上半期で一番聴いたアルバムと言っても過言ではない。藤井風は知人に教えてもらって初めて聞いたんですが、その独特の声・歌い方にどっぷり漬かりました。土曜ANN0に出演した時には深夜3:00~5:00までリアタイしました。
推し曲:罪の香り

HELP EVER HURT NEVER(初回盤)(2CD)

HELP EVER HURT NEVER(初回盤)(2CD)

  • アーティスト:藤井 風
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: CD
 

 

 

SHIFT_CONTROL 『Afterimage』

個人的に「なんでもっと早く聴かなかったんだ」と悔やむほどにはまった。こちらも初のフルアルバム。岐阜出身の4ピースですが、Vo.アサノ チャンジの声がよい。エモめの歌詞と合わせてとても気に入りました。
推し曲:かまうな

Afterimage

Afterimage

  • アーティスト:SHIFT_CONTROL
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: CD
 

 

Vaundy 『strobo』

こちらのブログでも紹介した、Voundyの1stフルアルバム(あれ、ここまで全部1stだな)。彼の特徴はとにかくその歌唱力。ふり幅の大きいジャンルに捕らわれない声は、これで本当に20歳なのかと思わせるほどでした。こちらもほぼ毎日のように聞いているアルバムの一つです。
推し曲:僕は今日も

strobo

strobo

  • アーティスト:Vaundy
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: CD
 

 

さかいゆう 『Touch The World』

はい!みんな大好きオーガスタ!!! オフィスオーガスタの見る目ってほんとうに素晴らしいと思うんですよね……。さかいゆうはその中でも特に好きなアーティストのひとり。ポップスという枠は意識しつつも、それをさかいさん独自の手法で崩していくこのかんじがたまらない。今回のアルバムは最高傑作だと思ってます。何度聞いても新しいポップスを見せてくれるんですよね……。たまんねえぇ……。
推し曲:21番目のGrace

Touch The World(初回限定盤)(DVD付)

Touch The World(初回限定盤)(DVD付)

  • アーティスト:さかいゆう
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: CD
 

 

Sano ibuki  『SYMBOL』

なかなかのクセモノですよ彼は……。もともとはアコギ弾き語りのイメージが強かったのですが、「emerald city」で一気にカラを破ってきたかんじ。こんなSano ibuki初めて。前アルバム「STORY TELLER」も非常に好きだったのですが、半年で軽々と塗り替えてきましたね。
推し曲:emerald city

SYMBOL(初回限定盤)

SYMBOL(初回限定盤)

  • アーティスト:Sano ibuki
  • 発売日: 2020/05/13
  • メディア: CD
 

 

秋山黄色 『From DROPOUT』

もともと注目度は高かったものの、「猿上がりシティーポップ」で一気につかまれ、「モノローグ」で引きずり落されたって感じですかねぇ。実は東名阪ワンマンツアー当たってまして……。もうあの規模のハコで彼を見られることはないのだろうな。きっと次回はZepp規模のライブハウスを仕掛けてくると思います。もっと聴きたい。
推し曲:モノローグ

From DROPOUT (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

From DROPOUT (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

  • アーティスト:秋山黄色
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: CD
 

 

中村一義 『十』

両親が好き、という理由で、昔から聴いていた中村一義。4年ぶりのフルアルバムは、やはりそのやさしさが詰まったアルバムでした。最後の曲に「愛にしたわ。」はずるい。泣いてしまうじゃんか。

十 [CD] (通常盤)

十 [CD] (通常盤)

  • アーティスト:中村一義
  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: CD
 

 

 

 [Alexandros] 『Bedroom Joule

色眼鏡といわれたら、そうかもしれないけれど、私はやっぱり何度も[Alexandros]に助けられてるんですよね。つらい夜も眠れない夜もずーっとドロスを聴いて乗り越えてきました。だから、彼らがリモートで、しかもBedroomというコンセプトでアルバムを作ってくれるなんて思っていなかった。この時期曲作りすらままならない環境で、こうして知恵を絞ってアルバムをリリースしてくれたのは、本当にうれしいなとおもいます。

今までの激しくさわやかなロックとは全く違う、ベッドルームで聴くのにちょうどいいアレンジの数々。ドロスの新しい一面を見られたなとうれしくなりながら、今はこれを聴きつつ眠りに落ちてます。
推し曲:Adventure (Bedroom ver.)

 

 

 

今年もあと半分。どんな音楽に出会えるのかが楽しみです(毎回言ってる)。

あと秋くらいからはフェスとかライブとか再開できるような世界になっているといいな。もしCDJがやるなら4日通します笑。

 

 

とてもあたたかく、おいしい5年間をありがとう。 -小湊悠貴『ゆきうさぎのお品書き』シリーズ読了メモ

 

「おいしい」は笑顔に直結するものだと思っています。

どんなに疲れていても、悲しいことがあっても、あたたかくておいしいものを食べたならば、ほっ、と肩の力が抜け、口元がやわらかくなる。それは他人が作ってくれた料理でも、自分が作った料理でもおなじ。私は「ごはんを食べる」ということがだいすきです。

 

 

『ゆきうさぎのお品書き』シリーズは、色とりどりの表紙にうっかりと釣られ、表紙買いしてしまった作品。2016年、集英社のライトレーベルであるオレンジ文庫がまだ立ち上がって間もないころ、第1巻『ゆきうさぎのお品書き 6時20分の肉じゃが』が発売になり、2020年6月19日、第10巻である『ゆきうさぎのお品書き あらたな季節の店開き』によって見事なる完結を遂げました。

 

私が半年に一回、毎巻欠かさず発売日に手に取り、楽しんできたシリーズの完結。とてもあたたかく、おいしい5年間を一緒に歩いてくれた『ゆきうさぎのお品書き』に、感謝の意を込めて。

 

 

 

ある事情から、極端に食が細くなってしまった大学生の碧。とうとう貧血で倒れたところを、「ゆきうさぎ」という小料理屋を営む青年、大樹に助けられる。彼の作る料理や食べっぷりに心惹かれた碧は、バイトとして雇ってもらうことに! 店の常連客や、お向かいの洋菓子店の兄妹、気まぐれに現れる野良猫(?)と触れ合ううち、碧は次第に食欲と元気を取り戻していく――。

『ゆきうさぎのお品書き 1』裏表紙より

 

以下、がっつりネタバレあります。

  1. 5年間をかけて、碧の4年間と、その先を追う物語
  2. 表現される料理のあたたかさ
  3. 碧と大樹がすすむ道に
  4. まとめ

 

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フジファブリックはずっとフジファブリックだったのに。 -こないだの、帰省したときのこと

 

 ※rockin'on.com 内、「音楽文」にて掲載していただきました。

 

ongakubun.com

 

先日、週末を利用して実家に帰省した時の話だ。

「ねえ、フジファブリックって知ってる?」

普段、ジャズやクラッシックしか聴かない母が、私にそう尋ねてきた。話を聞けば、先日テレビで志村正彦の特集をやっていたのだという。

「なんだか、すごく印象的な声でね。耳に残っちゃったんだ」

あまりに唐突で、いつもの母の口には似合わない「フジファブリック」という単語に驚きながらも、私は母に、自分とフジファブリック、そして志村との出会いの話をすることにした。
 

**
私がフジファブリックに出会ったのは、2012年、「徒然モノクローム」がきっかけ。すでに志村はこの世にいなかった。フジファブリックといえば、3人体制というのが私のファーストインプレッションだった。

軽快なそのリズム、少しけだるげなボーカル、明るい曲調。私が出会ったのは「新・フジファブリック」だったのだ。

私は「前・フジファブリック」をあえて聴かなかった。「前・フジファブリック」時代の曲を「新・フジファブリック」が演奏したものも、とことん避けた。もちろん、ボーカルが志村であることは知っていたし、志村がすでに亡くなっていたことも調べればすぐにわかる。代表曲が「若者のすべて」であることも理解していた。

でも「新・フジファブリック」に惹かれた私が、志村のいた時代の「前・フジファブリック」を聴いて、好きだと思うのは、なんだかずるい気がしたのだ。言い方は悪いが、悲劇のヒーローには媚びたくなかった。
 

**
そんな私が、「前・フジファブリック」に触れてしまったのは、ROCK IN JAPAN 2017。忘れもしない、レイクステージ。「新・フジファブリック」が歌う「若者のすべて」を聴いてしまったのがすべての元凶だった。

正しく言えば、レイクステージの次のアーティストが見たかったから、前のアーティストであるフジファブリックのラスト曲「若者のすべて」がたまたま聴こえてしまった、が正解。フジファブリックの生歌を聴いたのは、実はこの時が初めてだった。
 

「最後の花火に今年もなったな
何年経っても思い出してしまうな」(若者のすべて)

違和感があった。私の知っている「新・フジファブリック」ではなかった。観客も、ステージにいるフジファブリックのメンバーもみんな「ここにはもういない志村」を想って、手を挙げていたんだと思う。

「新・フジファブリック」とか、「前・フジファブリック」とか、そんなレッテルを貼って志村の歌声を聴かなかった自分が恥ずかしくなった。

フジファブリックは、いつなんときでも、フジファブリックだったのに。
 

その翌日、私はとうとう志村の声の「若者のすべて」を聴く。フジファブリックに出会って5年。聴かないでいて、ごめんね、と、スマートフォンの小さな画面の中で歌う志村に向かってつぶやいた。
 

**
これが私の、フジファブリックと、志村との出会いの話だ。
 

母に話し終えたとき、母は「志村さんの声の『若者のすべて』を聴きたいね」と言った。あの直後に買った、「若者のすべて」のシングルCDを母とふたり、聴いた。

志村の声は世代を超えるんだ。フジファブリックは、志村がいたときからフジファブリックだし、今だって志村は人々を魅了し続ける。悲劇のヒーローなんかじゃない。今も生きるヒーローだ。

この状況がおちついて、ライブハウスが開いたなら、母をつれてフジファブリックのライブを見に行こう。そう思った。

 

若者のすべて

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  • provided courtesy of iTunes
若者のすべて

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  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

ピンクのジャケ写でいいと思う。-Vaundy『strobo』

 

共感覚持ちの私にとって、Vaundyの色は赤です。

真っ赤ではなくて、少し濁りがあって、ワインレッドまではいかないけれど、大人っぽい、でも少し子供っぽさが残る赤。

 

だから、今回1stアルバム「strobo」のジャケットがピンク一色だったのを見て、最初すごく違和感を感じたんです。えーーちがくなーーーい? って。

 

結局のところ、ピンクでよかったと思います。その答えは最後に。

 

strobo

strobo

  • アーティスト:Vaundy
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: CD
 

 

 

完成度で言えば、”この年齢で”この完成度か、すっごいバケモンだな。という感想。というのも、Vaundy、まだ19歳(誕生日は6月6日なので、もうすぐ20歳ですね)。ただし、冠詞にかならず”この年齢で”がつく気がする。

 

YUI絢香を輩出したことでも知られる音楽塾ヴォイス出身のその歌唱力は見事なものですし、色っぽくスモーキーな曲から元気ポップな曲調まで歌いこなすふり幅もさすが。

 

 

 

最初にVaundyを世間に押し出した「東京フラッシュ」は、その歌詞のけだるげなイメージをうまく曲に載せてますし、Cメロのピアノがめちゃくちゃささりますね。

 

東京フラッシュ

東京フラッシュ

  • Vaundy
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 


東京フラッシュ / Vaundy :MUSIC VIDEO

 

 

「東京フラッシュ」で一気に「ああ、エモい曲うたうんだな」と思わせておいて、「怪獣の花歌」。さわやかなんですよ。
ふり幅まじですごい。サビの疾走感はもちろん、オクターブ下でハモりを入れてるんですが、その共鳴感と音域の広さ。Cメロのセルフハモの神々しさ。

クセのない声だからこそできる違和感のないメロに寄り添うハモが美しいなぁと思います。

 

怪獣の花唄

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か!ら!の!またこれもエモエモな「life hack」。実は私が初めて聞いたVaundyはこの「life hack」なんですけど、「自分のことを好きになっていく」っていう歌詞にちょっとヤられちゃって。

コーラスにさとうもかを迎えたこの曲、途中で電話のやりとりっぽいワンシーンがあるのですが、それも青春を謳歌している19歳のありのままの感じがして、すんごい甘酸っぱいんですよねー。

 

life hack

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life hack / Vaundy :MUSIC VIDEO

 

このアルバムで初登場のマイナー調曲「不可抗力」、ちょっとテクノっぽさを加えながらAメロをラップで整えた「soramimi」、コーラスがこれまた印象的な心地いいテンポ曲「napori」。

 

そしてなんといっても「僕は今日も」がこのアルバムの目玉かなと思いました。

壮大なピアノと低音パーカスから始まる、少し切ない物語のような曲。バックサウンドに大きくリバーブをかけてるので、声とのミキシングが難しいはず。特にコーラスにはラジオサウンドのようなエフェクトがかかってるっぽいので、よく調合したなあという印象です。

 

僕は今日も

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僕は今日も / Vaundy :MUSIC VIDEO

 

ラストはアコギで軽快に進む「Bye by me」。歌詞の詳しい解釈は割愛しますが、「僕、このアルバム頑張ったよ、また会おうね」と言われている気がして。とても素敵でした。

 

 

まとめますと、このアルバムのジャケットはピンクでよかったと思います。

たしかにVaundyの声って赤のイメージなんですけれども、”この年齢で”が冠詞につくアルバムだからこそ、まだ粗削りで、伸びしろがあるんだろうなって思うんです(超上から目線)。なら、赤じゃなくて、一つ手前のピンクでいいと思う。これからどんどん赤が濃くなって、今よりももっと深い赤になっていくと思う。

 

にしても、私はこのアルバムとても好きです。1stアルバムとしての完成度として、非常に高いものが出てきたな、という印象。

きっとタイアップとか今後もたくさんやってくれるアーティストだと思うので、もっと公に出てきてくれることを期待します。