Departure's borderline

フリーランス編集/ライターのいろいろな興味事

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マスクをつけるこの世界で生きていく -映画『聲の形』メモ

 

7月31日(金)の金曜ロードショーは、『聲の形』でした。

映画嫌いの私には珍しく、劇場で見たほどにとても大好きな映画で、漫画も全巻読み通しています。さすがの京アニ、クオリティの高い情景描写は圧巻です。

 

聲の形』が劇場公開されたときは、あえて字幕を、特別な友人とともに見に行きました。
私の右側に座った彼女は、高校時代の障害者福祉センターで出会った、ろうの友達。普段の会話は簡単な手話と、読唇術、筆談。

そして私も、ちょっとだけ聴覚にハンディキャップを持っているひとり。「この作品は字幕で」と、誘い合わせて見に行った作品でした。


映画『聲の形』 ロングPV

 

 

 

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私の左耳はポンコツで、高い音と低い音が聞こえず、中間の音も右耳の半分程度しか聞こえていません。

 

きっかけは16歳のときの突発性難聴。しんしんと雪が積もる日の朝、起きたら左耳が全く聞こえなくなっていました。その日は大事なコンサートに出演する予定があったので、そのまま本番に。

2~3日経っても聴力は戻らず、母に連れられ耳鼻科を受診したところ、すぐに大きな麻酔科の病院へ回されました。

 

「聴力が完全に戻る可能性、戻っても障害が残る可能性、まったく戻らない可能性、すべてが3分の1の確率」

 

絶望しました。

音楽をプレイする側としてずっと続けてきた私にとって、絶対音感を付けた私の耳は宝物でした。雨の音や風の音、葉っぱのカサカサする音もすべて、音階と色で聞こえてくる、そんな特別な感性を与えてくれた耳でした。

 

 

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次の日から、私の闘病生活が始まります。
毎日学校を遅刻または早退し、ステロイドの点滴とブロック注射、高圧酸素カプセルに入っての治療。一向に戻る気配のない聴力。裕福ではない我が家の家計に、私の高額な治療費という重荷を背負わせてしまっている罪悪感。

 

1年ほど治療を続け、一時期はほぼ全回復と言えるまで聴力は戻ったものの、その後ゆっくりと聴力が退化していき、現在の聴力までになりました。

 

 

なんとかして今までの生活を取り戻そうと、補聴器や集音器を試したこともありますが、私には合わなかったようで、現在は何もつけていません。

ですが、どうしても左側から話しかけられると、聞こえにくい場合があります。そのため、私は障碍者福祉センターに通い、人の唇を読む「読唇術」を学びました。今でも、聞こえにくいと思った場合は読唇術に頼っています。

 

 

 

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つまり、このご時世、みんながマスクをしていると、結構困ったりします。口元が隠れていて、読唇術が使えないから何度も聞き返してしまったり。人に「耳悪いんじゃないの?」と言われた時、少しだけ、悲しい気持ちになりました。

 

聲の形』を一緒に見に行った友人と、つい先日Zoomで飲み会をしました。マスク無しで話せるというのは、とてもありがたいことだね、とお互い話し、さらに彼女は、「人の会話が全く見えない。取り残された気分」とまで話していました。

 

「片耳が聞こえる」「普通に話せる」私。

「まったく聞こえない」「話せない」彼女。

程度は違えど、見えないハンディが、私を、彼女を少しだけ苦しめているこのご時世。
少しでも、映画を通してこういった見えないハンディキャップの理解が進むとうれしいなと思います。

 

 

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